ウェアラブルセンサを用いた運動中の深部体温推定 (2012〜)

近年、夏季の熱中症救急搬送数は5万件を超えており、熱中症の予防が求められている。熱中症の主な原因は身体深部の体温(深部体温)の過度な上昇であり、深部体温の上昇を防ぐために休憩や給水を適切に行うことが重要である。しかしながら、深部体温を直接計測するためには直腸や食道、鼓膜などの部位の温度を計測する必要があり、運動中の測定は困難である。

この課題に対し、本研究では市販の腕時計型ウェアラブルセンサにより運動中でも計測可能な心拍数・体表温度、および環境に設置したセンサから得られる気温・湿度を用いて深部体温を推定することによりこの課題を解決する。深部体温の推定のために、運動による熱の発生・発汗による熱放出などの人体の熱移動を定式化した生体温熱モデル(Gaggeの2ノードモデル)を用いる。モデルでは体温調節機能(発汗や皮膚血流増加)の個人差を考慮するため、6種類の可変パラメータを保有している。本手法では、休憩中など限られたタイミングにおいて、市販の鼓膜温度計を用いて深部体温を計測し、6種類のパラメータの合計230,400通りの組み合わせの中から最適なパラメータを決定し、そのパラメータ組を用いて 深部体温の推定を行う。

これまでに歩行、走行、エアロバイク、テニスの合計4種類の運動を実施し、のべ100時間以上のデータセットを収集し評価を行った。その結果、提案手法ではいずれの運動においても、深部体温シミュレーションの実測値に対する再現性能を向上させ、平均絶対誤差0.3°C以内で深部体温を推定できることを確認している。さらに、この深部体温推定手法を用いて、運動中に深部体温が38.0°Cを超えた際に警告を生じるアプリケーションを提案し、夏季に屋外でランニング・ウォーキングを行った実験で得られた60時間のデータセット(432分間が高温状態)に対して、5分以内にこれらの高温状態を検出できるかどうかを評価した結果、適合率0.965・再現率0.899となり、おおむね検出可能であることが分かっている。今後は、深部体温の上昇だけでなく、脱水状態も推定し、これらの2指標より熱中症の警告を生じるシステムを検討している。

簡易バイタルデータを用いた集中度の推定 (2015〜)

集中・緊張・興奮といった人の心理的状態の変化を知るためには、頭部に脳波計を装着することが望ましい。しかしながら、こういった装置は一般に大掛かりであり、小型のものであっても常時装着することが困難であることも多い。本研究では、呼吸数・心拍数・精神性発汗などのバイタルサイン、およびスマートフォンやウェアラブルセンサの加速度・スマートフォンのマイクより取得可能な音声等の物理的なコンテキストを組み合わせ、人の心理的状態を推定する手法を検討している。

スポーツにおける低コストなラベル付きデータの収集のための映像内選手同定手法 (2016〜)

プロスポーツチームでは練習や試合中に動画を撮影し、専門のスタッフのラベル付けによって得られたデータを活用した戦略立案や練習などが既に行われている。一方で、アマチュアチームでは動画を撮影することはできても、データ化に膨大なコストがかかるため、データの収集、解析を行うことが困難である。

そこで本研究では市販のカメラ映像内の選手を自動的に同定し、さらにラベル付けを自動的に行いスポーツにおけるデータ収集・活用を支援する技術を検討している。その実現のため、選手が装着しているウェアラブルセンサから得られる動きの情報(速さ、移動方向、ステップタイミング)と、映像内の選手の動きの情報(速さ、移動方向、ステップタイミング)を比較し、類似度が高い選手にセンサのIDを紐付けることで映像内の選手を同定する手法を提案している。提案手法では、映像内の選手の視覚的な情報から、よりモーションを抽出しやすい骨格情報を推定し、骨格の時系列的な変化から3種類の動きの情報を抽出する。

この手法について、実際のサッカー選手の軌跡を再現した3Dシミュレーションによって収集したセンサ、および映像のデータを用いて評価し、3秒間の映像に対しても、72%の精度で10人の選手を同定できることを明らかにしている。